Dormitory Life

ドミトリー・ライフ

「内」と「外」を行き来する。

2022年7月16日(土)

『ドミトリー・ライフ』は、寮生活のようすを聞くことをとおして、学生たちとキャンパスとのかかわりについて考えてゆく試みだ。これまでに紹介してきた湘南藤沢国際学生寮(SID)は慶應義塾大学学生寮なので、所属学部はちがっていても同じ大学に通う学生たちが一緒に暮らしている。 今回の記事では、NODE GROWTH 湘南台(以下、NGS)という「独立系」の学生寮の暮らしに触れてみようと思う。
NGSは、 2018年2月に竣工した。10階建て、全158室。湘南台駅から徒歩1分という立地だ。「独立系」というのは、特定の大学にかぎることなく、(通学圏にある)複数の大学・専門学校の学生が暮らすという意味だ。ウェブには「通学に便利な学校」として、SFCをふくむ12校が挙げられている。

今回は、NGSに暮らす中島梨乃さん総合政策学部4年)に話を聞くことができた*1。中島さんは、愛知県の出身。寮で暮らすことは、ご両親に勧められたという。COVID-19の影響で半期は実家に戻っていたが、その時期を除けば大学時代はずっと寮で暮らすことになる。聞けば、ご両親が学生時代に寮で暮らしていた経験があり、進学のさいには寮生活を勧められたという。食事の心配がない(NDSでは平日の朝夕の食事がついている)こと、なにより、ずっと一緒にいたい「家族」のようにつき合うことのできる友だちとの紐帯が生まれること。そうした寮生活の魅力が、ご両親の口から語られたのだから、迷うことはなかったはずだ。

NGSは駅に近いので、買い物はもちろん、飲食店もたくさんある。交通手段へのアクセスもいい。中島さんが入学したのは、NGSが2年目を迎え、学生寮として、まだはじまったばかりというタイミングだった。フロアの共有スペースで、ごく自然に友だちができた。
これまで、いくつかの学生寮を見学する機会があったが、多くの場合「レジデンス・アシスタント(RA)」といった名称の制度が整っている。寮生として暮らしながら、他の学生のサポートをする役目を負う。NDSでは「ノードコーディネーター(NC)」と呼ばれていて、中島さんは、入寮のさいにNCになった(1年目をNCとして過ごした)。あたらしく寮での生活をはじめると同時に、自分だけではなく、同居人たちのことも考えることになったのだ。

寮生活のありようについては、一人ひとりがちがう考え方をもっているはずだが、もし一つひとつの寮に、それぞれの「寮風(りょうふう)」ともいうべき個性的な暮らし方があるとすれば、それは運営する事業主(寮長・寮母さんもふくめ)やNCたちによってつくられてゆく性質のものだ。もちろん、NCとしての役目は果たしていた。カギを忘れたとか、ちょっとしたトラブルとか、それなりに仕事は忙しそうだ。人とのつながりをつくるような「マイプロジェクト」も提案する。
そのいっぽうで、中島さんは、少し距離を置きながら一人ひとりの暮らしを見守っているようにも見えた。いうまでもなく、寮には国内外からじつに多様な学生たちが集まっているのだ。NCという立場を経験したこともあって、誰が、何のために、どのように「寮風」をかたどっているのか。その仕組みや過程にも関心がおよんでいるような印象を受けた。

【写真提供】中島さん

学生寮は共同生活の場ではあるものの、「2食付きの単身者用マンション」として理解することもできる。だから、寮のなかでの人間関係に無関心の入居者がいても不思議はない。あるいは、たとえば同じフロアに20人の学生が暮らしていたとしても、その人数でまとまるというよりは、ちいさなグループがいくつかできているのが現状だろう。
フロアをこえた交流の可能性はあるのだろうか(…せっかくなら交流できたほうがいい)。フロア単位でのまとまりを意識するのは、どういうときなのだろう(…何か「問題」が起きると結束するのだろうか)。話しているうちに、NDSで参与観察をしたら面白いだろうなどと考えてしまった。

興味ぶかかったのは、「寮の友だち」と「大学の友だち」が、ちょっとちがうという話だ。とくに意識しているわけではないが、自然に緩やかに区別されているらしい。「大学の友だち」は、同じキャンパスに通うことはもちろんだが、さらに関心領域が近いという理由で知り合い、関係を育む。その意味ではちょっと「よそ行き」の感覚だ。いっぽう「寮の友だち」は、キャンパスから戻って、その日の出来事を話しながら晩ごはんを一緒に食べる。そんな「家族」のような存在だという。
もちろん、友だちを招くことは大好きとのことで、そのなかで、おのずと友だちを紹介し合う場面は生まれる。実際に、入居したころは、大学の友だちを寮に招く機会もあったという(1Fには「外」に開いた食堂がある)。中島さんにとって、「寮の友だち」は、自分の日常生活を気兼ねなくオープンにできる存在のようだ。「普段着」のまま、つき合えるということだろうか。

COVID-19の影響下にあって、中島さんは、いちど寮を出て(賃貸契約を終えて)半期は実家で過ごした。少しずつ状況が好転し、また実家を離れることを決め、ふたたびNGSに戻ってきた。NGSには、家族のような「寮の友だち」がいたからだろうか。いったん解約したが、まったく同じ部屋にもう一度住むことになった。長い旅行を終えて、ひさしぶりに帰ってきたような感覚だったのかもしれない。

話を聞いていて、キャンパスから適度な距離を置きながら住まうのも、なかなか魅力的に思えた。中島さんは、ときどき、週末にもキャンパスに出かける。人影のない、静かなキャンパスも好きだという。近すぎず、遠すぎない。「内」と「外」を行き来するからこそ、見えてくることはたくさんありそうだ。

*1:今回は、「研究会」の学生経由で紹介してもらうことができました。2022年6月2日、中島さんと1時間ほど話をして、この文章をまとめました。🙇🏻ありがとうございました。じつは、2019年の「SFCクリエイティブウィーク」や他のウェブの記事で中島さんのことは(ちょっとだけ)知っていたのですが、会うのは初めてでした。引き続き、少しずつ「ドミトリー・ライフ」について綴っていくつもりです。