Dormitory Life

ドミトリー・ライフ

国際学生寮を見に行く(2)

2024年11月7日(木)

上智大学 祖師谷国際交流会館

「国際学生寮を見に行く」2か所目は、上智大学の「祖師谷国際交流会館」へ。成城学園前駅からバスで10分弱。静かな住宅地のなかにあった。四谷キャンパスまでは、60分くらいかかるはずだ。この学生寮は2012年4月に運用を開始しているので、10年以上の歴史がある(先日行った早稲田大学のWISHは、2014年3月に開設)。ただ、話を聞くと、施設(建物)自体は1993年に竣工、もともとは独立行政法人 日本学生支援機構(JASSO)が外国人留学生の寄宿舎として設置・運営していた「祖師谷国際交流会館」だった。

2009年秋に行政刷新会議が生まれ、そのなかで、この施設はいわゆる「事業仕分け」の対象となった。当時の資料「事業仕分け結果・国民から寄せられた意見と今後の取組方針について」*1を見てみると、いろいろな意見があったことがわかる。多くは、「仕分け」には反対だった。理由はシンプルで、政府の方針として、将来的に海外からの留学生を増やそうということなら、公共機関でそれを推進するのはごく自然なことだからだ。資料を見ると、同機構が運用していたいくつかの施設が大学等に売却され、それぞれの大学で学生寮として使われているようだ。


上智大学 祖師谷国際交流会館

ともあれ、この「祖師谷国際交流会館」は上智大学に売却され、建物はそのタイミングで改築されたらしい。「上智大学 祖師谷国際交流会館」は、大学の学生寮としての歴史は10数年だが、施設は30年ほど前に創られたものが「居抜き」で転用されているということだ。

上智大学は、当時の「国際化拠点整備事業(グローバル30)」の拠点大学のひとつであり、学生たちの受け入れ環境の整備をすすめていたという背景もある。ふだんはさほど意識することがないが、「ドミトリー・スタディーズ」は、こうした政府の方針などにも目を向けて考えていくことが重要だ。「国際」の二文字はもちろん大切だが、なにより、学生たちの生活をより豊かにすること、つまり「大学生活」は学業だけで成り立つわけではないという理解こそが求められている。
これは、COVID-19の影響下で暮らした経験からも実感することで、学生たちは、対面で人と接する機会を切望していたのだと思う。これまで、寮で暮らす学生たちと話すなかでも、あの数年間の孤独感・孤立感が話題になることは少なくない。

左:個室(フロアに15〜20室) 右:図書室

開設のタイミングで改築されたとはいえ、やはり30年の歴史を感じさせる施設だった。ウェブには、単身棟の個室が320室と書かれている(Ηヴィレッジと、だいたい同じくらいの規模だ)。現在は、50か国から、280人ほどが暮らしているという。レンガをもちいた外観も全体的にゆったりとした建物の配置も、いずれも落ち着いた雰囲気で、個人的には好きだった。
部屋はユニットではなく、それぞれのフロアに15〜20の個室が並んでいる。個室内は、これまで見てきたものとあまり変わらない感じがした。前身のころに整備された施設は、(多少の改変はありそうだが)ほぼそのまま使われているようで、カフェテリア、ビッグキッチン(カフェテリアキッチン)、ラウンジ、図書室、学習室、会議室、講堂、和室、音楽練習室、体育館、トレーニングルーム、テニスコートなど、充実していた。

1993年、つまり平成5年の竣工だが、ぼくから見るとやはり「昭和」を感じさせる、なんとなく懐かしい雰囲気があった。ラウンジや図書室、講堂などは大きな窓からたくさん日が差し込んで、周辺の穏やかな環境と相まって、暮らしやすそうに見えた(平日のお昼ごろに見学したので、おそらく学生たちはキャンパスに出払っていて、それで、なおさら静かで落ち着いて見えたのかもしれない)。


ラウンジ


カフェテリアキッチン(ビッグキッチン):前身のころの大きなキッチンがカフェテリアに併設されている。充実の設備。居住エリアは男女別になっているので、みんなで一緒に料理をして食べるようなときは、このキッチンが使われるらしい。

ここでは、2014年から「リビンググループ」という仕組みが導入されている。「リビンググループ」は「交流互助システム」で、つまりはフロアごと(15くらいの個室から成る)でひとつのまとまりになって、お互いにサポートし合うということだ。そして、それぞれの「リビンググループ」にはリーダー(リビンググループリーダー, LGL)がいる。大学によって呼称や役割(責任や権限)はことなるが、このLGLは、RA(レジデンス・アシスタント)のように、報酬(家賃補助)を受けながら、学習や交流のイベント企画をすすめるとともに、日常的にはフロア全体に目を配り、グループのことはなるべくグループで対応できるように務めるという。LGLのための研修や交流の機会も充実していて、リーダーとしてのスキルや意識の醸成に役立っているようだ。

今回も、学生どうしで意見交換をする機会を設けることができた。上智大学のLGLと、Ηヴィレッジの学生との話も、どうやら盛り上がったようだ。教職員・管理運営にかかわわるメンバーどうしの意見交換も面白かった。細かいルールというよりも、もう少し大きな生活信条のようなもの(ミッションとビジョン)をきちんと(ある程度厳格に)共有しておくことで、現場はより柔軟に動けるようになるのだと思う。10年以上におよぶ学生寮の運用をとおしてえられた知見・知恵に裏打ちされているからだろうか、マネージャーからも、学生センターのスタッフからも、余裕を感じた。

ぼくは、午後の授業があったため中座したが、今回も興味ぶかい視察になった。

*1:事業仕分け結果・国民から寄せられた意見と今後の取組方針について 文部科学省 https://www.mext.go.jp/a_menu/kouritsu/detail/1297185.htm